待遇表現
<辞書における「待遇」「表現」>
【待遇】
1.人をあしらいもてなすこと。
2.職場などでの地位・給与などの取扱い。
3.ある地位に準じた取り扱いを受ける格式。
『広辞苑』第7版
【表現】
内面的・精神的・主体的な思想や感情などを、外向的・感情的形象として表すこと。また、この客観的・感情的そのもの、すなわち表情・身振り・動作・言語・作品など。
『広辞苑』第7版
【待遇表現】
話題の人物に対する話し手の、尊敬・親愛・軽侮などの態度を表す言語表現。
『広辞苑』第7版
<辞書における解釈と「待遇表現」の関連性>
菊地(1989)
「「待遇表現」の「待遇」とは、「あの会社の待遇がいい」とか、会社の地位で「役員待遇」などというときの「待遇」とは基本的には同じで、簡単にいえば「扱い」という意味である。」
<「待遇表現」の体系>
日本語教育学会(2005)
待遇表現は、大きく2つに分かれる。1つは敬語と呼ばれるもので、話し手の敬意、丁寧な態度などを表現する。その対極には卑語と呼ばれるものがある。卑語は話題の人物なり、聞き手を馬鹿にしたり、ののしったりする表現である。
<「待遇表現」の定義>
待遇表現の定義をもっとも早く提示したのは,松下(1901) である。その一年前には,岡田(1900) において「待遇」の用語が用いられている。
松下(1901)
「ある事物に対する講話者の,尊卑の念を表はすもの」。
山崎(1963)
「話手が,ある特定の人について(対して,又は関して)表現する時,その人に関する諸種の条件を考慮して,その人にふさわしい言語上の待遇を与える。この配慮はその人に関する事物にも及ぶ。このような表現を「待遇表現」と呼ぶ」。
日本語教育学会(1982)
「話し手・書き手が、人間関係への心配りのもとで、話したり書いたりすること。また、その言語形式としての語句や文。人間関係への配慮のもとでの言語表現。」
菊地(1989)
「基本的には同じ意味のことを述べるのに、話題の人物/聞き手/場面などを顧慮し、それに応じて複数の表現を使い分けるとき、それらの表現を待遇表現という。」
蒲谷・坂本(1991)
「待遇表現とは、表現主体がある表現意図を、自分・相手・話題の人物相互間の関係、表現場の状況・雰囲気、表現形態等を考慮し、それらに応じた表現題材、表現内容、表現方法を用いて、表現する言語行為である。」
蒲谷、川口、坂本(1994)
待遇表現とは、次のようなプロセスを含む一連の「表現行為」である。
「自分」・「相手」「話題の人物」相互の「人間関係」を認識し、状況・雰囲気・文脈などの「場」を意識する。
「表現形態」(「音声表現形態」あるいは「文字表現形態」)を考慮する。
以上の制約に応じた「題材」・「内容」、適当な「言材」を選択し、「文話」(文章、談話)を構成し、「媒材」化(音声化あるいは文字化)する。
<「待遇表現」定義の変遷と研究対象の拡大>
上記のように、「待遇表現」という用語の定義は時代と研究者によって様々である。西尾(2003)は「「待遇」という用語・概念は100年以上前から存在しながら、その定着に非常に時間がかかった。待遇表現の定義は時間を経て多様さを増した。」と述べている。例えば、山崎(1963)、日本語教育学会(1982)は言語表現のみを待遇表現としているのに対し、蒲谷・坂本(1991)、蒲谷、川口、坂本(1994)は言語行為、表現行為も待遇表現としており、「待遇表現」の範囲を広く捉えている。
定義の多様化にともない、研究対象も拡大しつつある。分析対象とする言語の単位は狭義の待遇表現のレベルを超え、文や発話、さらに非言語行動にまで拡大した。また、言語使用時の意識や心理までもが研究対象となった(西尾,2003)。
<「待遇表現」の運用>
日本語教育学会(2005)
社会生活を営む上で人間関係は重要である。待遇表現は円滑な関係を保つための言語手段であり、生活の中でことばを交わす機会のある人に対する気配りとかかわると」いってもよい。社会生活の潤滑油とも言えるだろう。
例えば(親しい人に対して)
水をくれ/水をちょうだい。
(レストランの店員に対して)
水をください/水をもらえませんか。
(知らない人/目上の人)
水をいただけませんか/水をくださいませんか。
関連語
配慮表現
待遇行動
敬語
参考文献
岡田正美(1900)「待遇法」
蒲谷宏・坂本恵(1991)「待遇表現教育の構想」
蒲谷宏・川口義一・坂本恵(1994)「待遇表現研究の構想」
菊地康人(1989)「待遇表現―敬語を中心に―」
西尾純二(2003)「マイナス待遇表現の言語行動論的研究」
松下第三郎(1901)『改選標準日本文法』
山崎久之(1963)『国語待遇表現体系の研究―近世篇―』
〈作成者:リュウ〉