日本語教育Wikipedia

早稲田大学大学院日本語教育研究科小林ミナ研究室に所属する大学院生,あるいは,担当授業の履修生が日本語教育に関する専門用語について調べた内容を記述するサイトです。教育活動の一環として行っているものですので,内容について不備不足がある場合がありますのでご注意ください。記事の内容の著作権は,各記事末尾に記載してある作成者にあります。

動機づけ

目次

1.「動機づけ」の定義

2.「動機づけ」の関連語

3.「動機づけ」と関連語の関係

4.参考文献

 

 

1.「動機づけ」の定義

Motivationの訳語。

心理学の学術用語としてのmotivationは、人間が、期待される結果にもとづいて、ある行動を選択し、いくつかの方策を用いてそれを実行する、一連の要因およびプロセスである。(Heckjausen1991:9,岡2017訳)

 

「動機づけ」の定義について、研究者によって異なる。

論文

定義づけ

桜井(1997)

ある目標を達成するために行動を起こし、それを持続し目標達成へと導く内的な力。

速水(1998)

ある目標追求行動の生起から終結までを支える、感情も認知も、価値も期待も取り込んだ総合的なエネルギー。

文野(1999)

学習動機を持たせるように勧める要因。

守谷(2004)

人がなぜあることを行おうと決心し、それをいかに熱心に追求し、またいかに長く持続するのかという、人間の行動の方向と程度に関わるもの。

市川(1995)

目標を達成するために行動を方向づけて維持するもの。

西部(2009)

行動への傾斜を外から客観的に捉える時に用いる用語。

大西(2010)

人間の行動の方向と規模を決めるもの。

大西(2014)

人がある状況下で、何らかの行動をとる際の行動選択の過程やその行動を維持するためのプロセス。

 

以上の動機づけの定義を踏まえた上で、動機づけとは

「人がある目標を達成するために行動を起こし、その追求行動の生起から終結までを支える、行動の方向と規模を決めるもの。」とする。

 教育が「教師主体」から、「学習者主体」にシフトした現在、習得に影響を与える学習者要因に関する研究が多く行われている。動機づけは、学習者要因の一つである。動機づけとは、様々な概念の集合体であり、単一概念としての動機づけは存在しないと考えられる。竹内(2010)は動機づけを以下のように分類している。

  1. 学習対象に関する興味や好感度
  2. 学習結果に関する期待感や満足感
  3. 学習過程に関するコントロール感や信念
  4. 学習者を取り巻く環境の切迫感
  5. 学習者自身の理想像
  6. 承認されたいという欲求
  7. コミュニケーションしたいという意思

                                 大西(2014)

 

 

2.「動機づけ」の関連語

【関連語】動機 モチベーション 意欲 内発的動機づけ 外発的動機づけ 道具的動機づけ 統合的動機づけ

 

並列関係:

・動機

行動の目標や目的(質的側面)を規定するのは「動機」(motive)。「動機」に加え、実際の行動の強さ(量的側面)を規定するのは「動機づけ」(motivation)。

                              廣森(2010)

・モチベーション

物事を行うための、動機や意欲になるもの。消費者の購買動機や、スポーツ選手の意欲などに用いられることが多い。

 ・意欲

勉強や仕事という場面に限定する、あるいは日常的な語としてプラスの価値を含めて認識される。前者の勉強や仕事という場面に限定する場合は、学習に対するエネルギーを「学習意欲」、すなわち「意欲」に「学習」をつけた用語で表している。

日本語教育において心理学の理論を用いる時は「動機づけ」が使われることが多く、教育実践に比重を置く時は「学習意欲」が使われることが多い。

                              岡(2017)

 

上下関係:

国語学習に関する動機づけは、統合的動機づけ、道具的動機づけという二つのタイプに大きく分けられる。

・道具的動機づけ

試験に受かりたい、いい仕事につきたいということや、そのことばが上達すると社会的な地位が向上するから、などといった動機づけ。

・統合的動機づけ

目標言語を話す人々を理解したい、その社会に参加したいといった動機づけ。

 

教育学の分野での、より一般的な動機づけ分類に、内発的動機づけと外発的動機づけがある。

・内発的動機づけ

知りたいから勉強する、おもしろいから、楽しいからといった、自分自身の内面から出てくる動機づけ。

・外発的動機づけ

外部から来る動機づけで、報酬がもらえるから、褒められたいから、といったもの。

 

 

3.「動機づけ」と関連語の関係  

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4.参考文献

Heckhausen,H(1991) Motivation and Action,Berlin:Springer-Verlagl

岡葉子(2017)「日本語教育学における『学習動機』の概念についてーmotivationの訳語をめぐる問題―」東京外国語大学留学生日本語教育センター論集 no.43 p.19-32 紀要論文

廣森友人(2010)「動機づけ研究の観点から見た効果的な英語指導方法」小嶋英夫・尾関直子・廣森友人 編『成長する英語学習者-学習者要因と自律学習-』p.47-74,大修館書店

日本語教育能力検定試験に合格するための用語集』アルク出版

スーパー大辞林』第3版

桜井茂男(1997)『学習意欲の心理学―自ら学ぶ子どもを育てる』誠信書房

速水敏彦(1998)『自己形成の心理―自律的動機づけ』金子書房

文野峯子(1999)「学習過程における動機づけの縦断的研究―インタビュー資料の複眼的から明らかになるものー」『人間と環境―人間環境研究所研究報告』3,p.35-45.

守谷智美(2004)「日本語学習の動機づけに関する探索的研究―学習成果の原因帰属を手がかりとしてー」『日本語教育』120,p.73-82.

市川伸一(1995)『学習と教育の心理学』岩波書店

西部由佳(2009)「教室内外での出来事による学習者の『学習意欲』の変動とその背景となる心理的要因―『可能性の予期』に注目してー」『小出記念日本語教育研究会』17,p.21-32.

大西由美(2010)「ウクライナにおける大学生の日本語学習動機」『日本語教育』147,p.82-86.

大西由美(2014)「日本語学習者の動機づけに関する縦断的研究:日本語接触機会が少ない環境の学習者を対象に」北海道大学博士学位論文 p.14-20.

 

 

〈作成者:サイコウエツ〉

ヘッジ

1.ヘッジの定義と定義をめぐる議論

2.ヘッジの型

3.ヘッジの関連語

4.参考文献

 

 

1.ヘッジの定義

「ヘッジ」は、もともと経済学用語であり、「リスクヘッジ」とも呼ばれ、資産運用(投資)のリスクを減少させるために取られる行動のことを言う。これは、垣根を作って危険から身を守ることに由来する用語で、投資においては、将来の価格変動リスクを回避したり、軽減したりする各種手法のことを意味している。

1973年、G.Lakoffが以下のような現象を説明するために初めて「ヘッジ」という概念を言語研究に導入した。

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この「sort of」が「真偽の二分法では表現できない曖昧な概念を示す働きをする語(小田訳,1988)であるとし、G. Lakoffの言う「ヘッジ」である。

これに基づいて、G. Lakoff(1973)は「ヘッジ」を「暗黙のうちにその意味が暖昧さに関与するような語、事柄をより暖昧にする、もしくはより暖昧でなくするといった機能を有する語」と定義している。つまり、命題内容の解釈を強める(intensifier)、あるいは弱める(deintensifier)という機能を有する表現のことである。

『研究社・日本語教育事典』によると、「日本語におけるヘッジは、主に発話の意味を柔らかく婉曲に表現する機能が取り上げられ、談話における対人関係調整のための機能が注目されている。用語も、『婉曲表現/ぼかし表現/あいまい表現/和らげ表現/緩和表現/気配り表現/垣根表現』等となっている」(2012)。

※本来のヘッジは、命題内容の解釈を強める強意語と解釈を弱める柔軟語という二つの種類があるとはいうものの、対人関係を重んじる日本社会では、ヘッジが主に意見の衝突や相手の気分を害するというリスクを避けるために用いられる。要するに、日本語においてはヘッジが「柔軟語」として捉われる場合が圧倒に多いと思う。

 

他の先行研究における「ヘッジ」の定義 

 

先行研究

ヘッジの定義

実例・備考

 

 

 

 

 

 

B&L

(1978/1987)

 

 

 

述部や名詞句が表すそのものらしさの度合いを修正するような小辞、語、慣用句である。

G. Lakoffの定義を敷衍し、ヘッジが発話内効力、ポライトネス・ストラテジーに関わるものであるとし、韻律的・動作的用法で表現されたヘッジについても言及している。

 

 

 

Nikula

(1997)

 

 

話し手のメッセージをよりためらいがちに、より曖昧にするストラテジーとして使用され、発話内容の力を減ずるものである。

学習者の使用するヘッジは英語母語話者に比べ、使用数、種類ともに限定的であること、“I think”の過剰使用、モダリティ形式の非用を指摘している。

 

 

 

 

Lauwereyns

(2002)

 

 

不確かさや可能性、ためらい、近似性を言語的に表現する曖昧表現である。

発話文末、副詞句、接続詞、接辞に出現する26種の言語形式について、性差、年代差、場面の改まり度の3つの観点から考察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入戸野

(2008)

陳述、質問、申し出、命令といった命題の中、前、または後ろに置かれて、以下五つの機能を持つものである。

1)情報の正確さに確信が持てないことを示唆する;

2)感情表現を緩和する;

3)意見、考えを曖昧にする;

4)自分の行動に言質を与えないようにする;

5)話し手が発言する権利を確保、維持し、聞き手を会話の中に積極的に参加させる。

1)昨日家に帰ったのは8時ごろだったかな。2)私さ、上司『だいっきらい』っていうか。3)昨日お見合いパーティーで会った人、いまいち、タイプじゃなかったかも。4)また来週、会えるとは思うけど…でも、よくわからない。5)それって、あのうなんか何ていうの、いい加減にしろって感じじゃない

 

(2008)

 

推量をしたり、または、断定や限定を避けたり、明言や断言をせずに、ぼかすことで発話内容の力を和らげる(弱めたり、緩和する)表現である。

「動詞・助動詞類」、「副詞類」、「名詞類」、「助詞類」、「接尾辞類」、「接続辞類」の六つの言語形式に分けられ、その中で、「特に、推量を表すモダリティ形式と程度を表す副詞がヘッジとして多く使われている。

 

 

 

 

 

 

Fraser

(2010)

 

発話者が言語的手段を使用し、ある表現の完全な成員性へのコミットメントの欠如(命題的ヘッジ行為)、あるいは伝えられる発話行為の効力への完全なコミットメントの欠如(発話行為のヘッジ行為)を表示することを可能にする修辞的なストラテジーである(堀江・堀田訳,2013)。

文法的な分類をすることはできないとしながらも、法副詞や法形容詞、法動詞、認識動詞などの語、句、否定疑問や付加疑問、動作主を明示しない受動文といった統語構造だどを挙げている。

 

 

 

 

山川

(2011)

 

 

話者の発話または発話行為に対して曖昧性をあらわす語彙である。

1)語彙(副詞、助詞、動詞、形容詞など)

2)非語彙(笑、ポーズ、イントネーションなど)

 

 

 

 

堀江・堀田(2013)

円滑な人間関係を確立・維持するための言語手段、つまり「ポライトネス・ストラテジー」の一つとして位置づけ、「断り」活動のFTAを緩和する言語形式である。

分析対象を命題内容に付加される単語レベルの言語形式に限定する)ちょっと、かな、みたいだ、感じ。

 

 

 

 

 

 

(2014)

 

 

 

コミュニケーションの中で話し手が責任を回避したり、自分の発話態度を緩和したりする機能を持つ言葉である。

語レベル:あのー、辺(へん)、見える、一応、いまいち、くらい、けど・句レベル:うまくいえないが、よくわかんないけど・連語的なもの:何ていうの、ふうに。文型のようなもの:みたい(みたいな)

 

先行研究から見れば、ヘッジの定義は研究者や研究分野によって異なり、まだ統一されていない傾向が見られる。

 

 

2.ヘッジの型

今まで品詞性によってヘッジの型をまとめたことが多いが、「ヘッジが単なる言語の現象ではなく、声の出し方(高低、声調など)、顔の表情といった非言語的な要素も含んでいる」(Itani,1996)という指摘を受け、山川(2011)はヘッジの型を以下のようにまとめている。

1)語彙(副詞、助詞、動詞、形容詞など)

2)非語彙(笑、ポーズ、イントネーションなど)

これらに基づき、李(2014)は以下のように具体的にまとめた。

 

ヘッジの例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言語表現

 

 

 

 

 

語レベル

感嘆詞

あのー、さ(さあ)、そのー、ま(まー) など

名詞

あれ、関係、感じ(感覚)、ほう、程、辺(へん)など

動詞

思う、(って)聞く、見える など

 

副詞

一応、いまいち、おそらく、かなり、けっこう、大体/大抵、だいぶ、たしか、たぶん、ちょっと、とりあえず、なんとか、なんとかかんとか、なんとなく、ほとんど、もし、やっぱり、わりと など

助詞

か、くらい、って、て、でも、とか、なあ、など、なんか、なんて、の、ね(ねー)、かな、かね など

接続詞

けど など

接続辞

辺り、系(けい)、ごろ、~っぽい、~的 など

 

句レベル

 

大ざっぱに言って、大まかに言えば、厳密に言えば(厳密に言うと)、こんなこと言うのなんだけど、(よく)知らない、よくわかんないけど など

連語的

なもの

 

か言って、っていうか、というふうな、とか思って、なんちゅうの、何ていうの、ふうに、よかったら、ような など

文型なようなもの

 

かどうか、かないか、かもしれない(かも)、じゃない?じゃん、そうだ、たりして、~たり~たりする、だろ(う)、でしょう、みたい、(みたいな)、らしい など

非言語表現

へへへへへへ(笑い)、ポーズ、イントネーション(上昇)、(「だ体」から「です・ます体」への)スタイルシフト、省略 など

 

 

3.関連語

ヘッジ=婉曲表現/ぼかし表現/曖昧表現/和らげ表現/緩和表現/気配り表現/垣根表現f:id:minakob-lab:20190219203611p:plain

曖昧表現は、ヘッジのような直接的な言い方を避け、発話の意味を柔らかく婉曲にする表現であるが、曖昧な表現は、具体的に示さず、いくつかの意味が含まれ、一人ひとりの考え方の違いによって複数の解釈可能性をもたらす表現である。(例:「AとBが結婚した。」の文に対して、①:AとB、この二人が結婚した。②:AがCと、BがDと結婚した。なのでAとB二人が既婚者。という二つの解釈がある。)

 

                                                                                                                     

4.参考文献

入戸野みはる(2008)「グループのサイズとヘッジの使用量について」,Proceedings of 15th Princeton Japanese Pedagogy Forum, Saturday ,May 3-Sunday,2008,93-107

小田三千子(1988)「Hedgeについての一考察―社会言語学的観点から」『東北学院大学紀要』80, 155-176

山川史(2011)「学習者のヘッジ使用―インタビューにおけるレベル別会話分析」『日本語教育研究』57,124-142.

堀田智子・堀江薫(2013)「日本語学習者の「断り」行動におけるヘッジの考察:中間言語語用論分析を通じて」『語用論研究』14,1-19.

Brown, P. and Levinson, S.(1987). Politeness: Some universals in language usage. Cambridge:

Cambridge University Press.

Itani, Reiko (1996): Semantics and pragmatics of hedges in English and Japanese. Tokyo: Hituji Syobo.

Lakoff, George (1973). Hedges :a Study in Meaning Criteria and the Logic of Fuzzy Concepts. Journal of Philosophical Logic 2,458-508.

Lauwereyns, S.( 2002).Hedges in Japanese Conversation: The Inftuence of Age,Sex,and Formality. Language Variation and Change 14,239-259.

Nikula,T.(1997).“Interlanguage View on Hedging." In R. Markkanen and H. Schroder(eds.) Hedging and Discourse: Approaches to the Analysis of a Pragmatic Phenomenonin Academic Texts ,188-207. Berlin: Walter de Gruyter.

李恩美(2008)「日本語と韓国語の初対面二者間会話における対人配慮行動の対照研究ディスコース・ポライトネス理論の観点から」東京外国語大学博士論文.

李凝(2014)从话语分析角度考察日语模糊限制语和填充词.语文学刊,2.1-3.

 

 

〈作成者:郭 同〉

シラバス

日本語教育における、シラバス(syllabus)には二つの意味がある。一つは、「クラスの構造,目標,目的,履修条件,成績決定方法,教材,カバーされる内容,スケジュール,参考図書などを記述した文書で、教師と学習者のあいだの契約のような役割を果たすもの」(當作, 2015, p.754)であり、一つは、「教育方法、あるいはクラスの教育・習得内容(たとえば,文法構造,文パターン,機能,トピックなど)とその構成を示したもの」(當作, 2015, p.754)である。主に日本語教育シラバスと使う場合、後者の習得内容とその構成を示したもの(教授細目)を指すことが多い。一方、主に学校教育でシラバスと使う場合、前者の契約のような役割を果たすもの(授業計画)を指すことが多い。また、一般にシラバスとカリキュラムを、同義語として扱い、使い分けされない場合も多い。

 

 

目次 

1 主に学校教育で利用されるシラバス(授業計画)

2 主に日本語教育で利用されるシラバス(教授細目)

 2.1 原型シラバスシラバスインベンタリー)(syllabus inventory)

 2.2 コースシラバス(course syllabus)

 2.3 シラバスの分類

  2.3.1 構成方法による分類

  2.3.2 決定時期のよる分類

3 カリキュラムとシラバスの関係

 3.1 カリキュラム(Curriculum)

 3.2 カリキュラムとシラバスの違い

4 表記のゆれについての補足

 4.1 「・」(なかぐろ)の有無

 4.2 複数表記(日本語訳表記とカタカナ語表記など)

5 関連項目

 

 

1 主に学校教育で利用されるシラバス(授業計画)

主に学校教育で利用されるシラバスの定義は以下のとおりである。シラバスとは、「授業科目の詳細な授業計画」であり、「授業名、担当の教員名、講義の目的、到達目標、各回の授業内容、成績評価の方法や基準、準備学習の内容や目安となる時間についての指示、教科書・参考文献、履修条件などを記載」したものを指す(文部科学省, 2012)。学校が、このような情報を提示することで、学生が授業を選びやすくことがよいとされている。

 

 

2 主に日本語教育で利用されるシラバス(教授細目)

主に日本語教育で利用されるシラバス(以下、特に断りがない場合、主に日本語教育で利用されるシラバス(教授細目)を、シラバスと書く)の定義は以下のとおりである。シラバスとは、「学習すべき項目のリスト」(小林,2010,p.39)のことを指す。例えば、教授細目一覧などがある。特に、シラバスを作成する作業のことを、シラバスデザインという。広義のシラバスには、原型シラバスと、コースシラバスの二つを含む。日本語教育で一般に、シラバスという場合、狭義のコースシラバスを指すことが多い。

 

2.1 原型シラバス(syllabus inventory)

原型シラバスシラバスインベンタリー)とは、シラバスの中でも、あるシラバス(構成方法による分類)で扱う全ての教授細目を網羅的にリストアップしたものをいう。例えば、漢字シラバスを想定した場合、常用漢字表といった、全ての漢字を網羅的にリストアップしたものがこれに当たる。このように原型シラバスは、網羅的なリストであるため、特定の学習者を想定すると、「簡単すぎるもの/難しすぎるもの、必要なもの/不要なものなどが一緒くたに並んでいる」(小林,2010,p.39)ことになる。

 

2.2 コースシラバス(course syllabus)

コースシラバスとは、シラバスの中でも、当該のコースで教える教授細目を選別してリストアップしたものをいう。例えば、漢字シスバスを想定した場合、学年別漢字配当表といった、教える項目を選別したものがこれにあたる。教科書も一つのコースシラバスとなる。原型シラバスから、コースシラバスを決める作業のことを、シラバスデザイン(syllabus design)あるいは、シラバスの刈り込みという。また、コースシラバスは「必ずしも学習する順番でならんでいるものではない」(小林,2010,p.40)ことに注意が必要である。

 

2.3 シラバスの分類

シラバスの分類には、リストアップする項目の種類による分類、決定時期による分類の二つがある(篠﨑,2012,p.124)。ここでは、リストアップする項目の種類を、構成方法による分類として記載する。

 

2.3.1 構成方法による分類

構成方法により分類するシラバスには以下のようなものがある。

 

構造シラバス(structural syllabus)

文法シラバス(grammar syllabus)

概念シラバス(notional syllabus)

機能シラバス(functional syllabus)

技能(スキル)シラバス(skill syllabus)

場面シラバス(situational syllabus)

話題(トピック)シラバス(topic syllabus)

タスクシラバス(task syllabus)

折衷シラバス(mixed syllabus)

((小林,2010,pp.40-43)(篠﨑,2012,pp.124-125)を元に筆者が作成)

 

 

2.3.2 決定時期のよる分類

決定時期により分類するシラバスには以下のようなものがある。

 

先行シラバス(a priori syllabus)

後行シラバス(a posteriori syllabus)

可変(プロセス)シラバス(process syllabus)

(小林,2010,pp.44-46)(篠﨑,2012,pp.125-126)を元に筆者が作成)

 

 

3 カリキュラムとシラバスの関係

一般に、カリキュラムとシラバスを同義語として扱い、使い分けされない場合もある。ここでは、カリキュラムとシラバスの違いについて整理する。

 

3.1 カリキュラム(Curriculum)

カリキュラムとは、当該のコースで、決定したシラバスを「いつ、どのように教えるか」(小林,2010,p.47)をまとめたものをいう。カリキュラムを決める作業のことをカリキュラムデザインと呼ぶ。カリキュラムデザインは、コースデザインの一連の流れとして行われ、コースのニーズに応じて内容を決定する。

 

3.2 カリキュラムとシラバスの違い

主に日本語教育で利用されるシラバス(教授細目)が、教授項目のリストであるのに対し、カリキュラムは、教授項目を、いつ、どのように教えるか、をまとめたものである。例えば、教室活動でいうと、使うべき教科書を選定し、その教科書から教えるべき単元を選別したものがシラバスとなる。そのシラバスを、いつの授業で教えるか、どのように教えるかをまとめたものがカリキュラムとなる。主に学校教育で利用されるシラバス(授業計画)が、カリキュラムに近い。

 

 

4 表記のゆれについての補足

シラバスの関連用語には、表記のゆれが多く存在する。ここでは次の二つの表記方法を取り上げて補足する。

 

4.1 「・(なかぐろ)」の有無

シラバス」という語と、それに先行あるいは、後続する語と間に「・(なかぐろ)」を置く場合と置かない場合がある。本項目では、「・(なかぐろ)」がない形で統一した。例えば、コースシラバスについては、「コース・シラバス」と「コースシラバス」の二つの表記方法があるが、ここでは「コースシラバス」と記した。

 

4.2 複数表記(日本語訳表記とカタカナ語表記など)

各種表記で、日本語訳表記を使う場合とカタカナ語表記を使う場合など、複数の表記方法がある場合がある。その場合、一方を平文で記し、他方を括弧書きで付した。特に、日本語訳表記とカタカナ語の複数表記の場合、日本語表記を平文で記し、カタカナ語表記を括弧書きで付した。例えば、可変シラバスは、「プロセスシラバス」と「可変シラバス」の二つの表記方法があるが、ここでは、「可変(プロセス)シラバス」と記した。平文と括弧書きの表記は、便宜的に選択したものであり、どちらが主に利用されているかといった観点で評価したものではない。

 

 

5 関連項目

・カリキュラム

・コースデザイン

 

 

参考文献

小林ミナ(2010)『日本語教育能力検定試験に合格するための教授法37』アルク.

篠﨑大司(2012)「言語と教育」日本語編集チーム(編)『日本語教育能力検定試験に合格するための用語集』pp.111-175.

當作靖彦(2005)「シラバス日本語教育学会(編)『新版日本語教育事典』、pp.352-354.

文部科学省(2012)「Q3 日本の大学の現状について、『授業に出席しなくても単位が取れる』『勉強しなくても簡単に卒業できる』などの声を耳にしますが、これについて大学はどのような対策を講じているのでしょうか。」http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigaku/04052801/003.htm(2019年2月1日閲覧).

 

 

〈作成者:大崎 健一〉

くり返し

1.「くり返し」の定義と定義をめぐる議論

2.「くり返し」と「関連語彙」との関係性

3.参考文献

 

1.「くり返し」の定義と「くり返し」の定義をめぐる議論

「くり返し(英:repetition)」…日本語教育における専門用語である。反復と同義であるとされ、研究者によって定義も異なる上、「くり返しの形状」についても研究者によって異なっている。Tannen(1984)のように、「一見普通の発話でもそれが過去における発話を下敷にした、会話の当事者達にしかそれとわからないようなくり返しである可能性をも含めれば、およそ全ての発話が潜在的にくり返しの発話である」という研究者もおり、「くり返し」を広義で捉えるか、狭義で捉えるかによっても「くり返し」の意味合いは異なってくる。

日本において初めて「くり返し(反復)」について詳細に論じたのは牧野(1980)であるが、明確な定義はしていない (「先述したように「くり返し」と「反復」は同義とされている)。その一方で、牧野(1980)は、「反復は言語の反復であれ、非言語の反復であれ、四季の反復であれ、人間の生活の緊張感をとき、生活にゆとりとリズム感を与える」(p.243)ものだとし、「反復」を広く捉えながら論じている。

 

また、中田(1992)では、「くり返し」は以下のように定義されており、この定義をもとにした「くり返し」「反復」の研究も多い。

中田(1992)…同じ会話における既出の発話をなぞること

 

他にも、様々な研究者がそれぞれ「くり返し」を定義しており、それらをまとめたものを別表にて添付する。

 

 

2.「くり返し」と「関連語彙」との関係性

 

関連語彙

関係性

 

聞き返し・共感・あいづち・情報やり方略・会話の方策・強調・念押し・間つなぎ・  会話ストラテジー

上位語

見出し語=「くり返し」

反復(ほぼ同義)・なぞる

類似の概念

 

自己発話のくり返し・他者発話のくり返し

下位語

 

※「情報やり方略」とは、栁田(2010)の造語であり、「日本語教育の知識を持たない母語話者が非母語話者に情報を提供する「情報やり場面」において、母語話者が情報提供のために用いるコミュニケーション方略」であると定義されている。

 

 

3.参考文献

岡部悦子(2003)「課題解決場面における「くり返し」」『早稲田大学日本語研究教育センター紀要』16,pp.97-116

黒川直子(2007)「日本語の談話における繰り返しについての考察」『ICU 日本語教育研究』3, pp.65-79

スケンデル=リザトビッチ マーヤ(2017)「日本語母語話者が道を教える際の道順説明の反復-母語場面と接触場面を比較して-」『言語文化と日本語教育』52,pp.11-20

田中妙子(1997)「会話における〈くりかえし〉-テレビ番組を資料として-」『早稲田大学日本語研究教育センター紀要』9,pp.47-67

中田智子(1992)「会話の方策としてのくり返し」国立国語研究所(編)『研究報告集』13, pp.267-302

中田智子(1991)「会話にあらわれるくり返しの発話」『日本語学』10-10, pp.52-62

平山紫帆(2018)「接触場面と母語場面での母語話者の自己発話のくり返し -日常的な接触経験と対話相手の日本語レベルの観点から-」『人間文化創成科学論叢』20, pp.105-113

福富奈美(2010)「日本語会話における「くり返し」発話について」『言語文化学研究』(5), pp.105-125

牧野成一(1980)『くりかえしの文法』大修館書店

松田文子(1998)「日常談話における反復表現の機能に関する一考察」『言語文化と日本語教育』16, pp.58-69

栁田直美(2010)「非母語話者との接触場面において母語話者の情報やり方略に接触経験が及ぼす影響-母語話者への日本語教育支援を目指して-」『日本語教育』145(0), pp.13-24

Tannen, Deborah(1984) Conversational Style: Analyzing Talk Among Friends.Norwood, N.J.:Ablex Publishing Corporation

Tannen, Deborah(1987) Repetition in Conversation: Toward a Poetics of Talk. Language 63:3.pp.574-605

Tannen, Deborah(1989) Talking voices: Repetition, dialogue, and imagery in conversational discourse. Cambridge: University Press

 

 

【別表】

 

著者 論文・文献名 くり返しの定義 形状 備考
中田智子 中田智子(1992)「会話の方策としてのくり返し」国立国語研究所(編)『研究報告集』13, pp.267-302 同じ会話における既出の発話をなぞること 再現型・一部変更型・補足型・言い換え型・要約型・対句類 「くり返し」を7つのカテゴリーに分類した。
平山紫帆 平山紫帆(2018)「接触場面と母語場面での母語話者の自己発話のくり返し -日常的な接触経験と対話相手の日本語レベルの観点から-」『人間文化創成科学論叢』20, pp.105-113 既に発話されたことを再び発話すること ①元の発話をほぼ同形でくり返すもの②一部を変更した物③要素を補足したもの④意味を保持した言い換え 中田(1992)にならっている
牧野成一 牧野成一(1980)『くりかえしの文法』大修館書店 「反復の定義」について述べているが、明確な定義はしておらず、「反復」を広く捉えながら論じている。   言語的反復のみならず非言語的反復にも言及している。
福富奈美 福富奈美(2010)「日本語会話における「くり返し」発話について」『言語文化学研究』(5), pp.105-125 既出の発話(あるいはその一部)を用いて行った発話であり、くり返されたもとの発話の要素を一部あるいは全部含むもの 1.くり返されたもとの発話が同じ一続きの会話内で特定できること2.他者発話をくり返したものであること3.フィラーやあいづちは対象としないこと4.多少の言い換えは対象とするが外来語や外国語から日本語へのパラフレーズは対象としない   などの補足を行っている。 福富は「くり返し発話」を定義した。中田(1992)の定義をもとにしている。10の機能に分類した。
Deborah Tannen Tannen, Deborah(1984) Conversational Style: Analyzing Talk Among Friends.Norwood, N.J.:Ablex Publishing Corporation 「一見普通の発話でもそれが過去における発話を下敷にした、会話の当事者達にしかそれとわからないようなくり返しである可能性をも含めれば、およそ全ての発話が潜在的にくり返しの発話である」   中田(1991)に左記の記述がある。 Tannen(1987)では他者発話の定義がされている。
松田文子 松田文子(1998)「日常談話における反復表現の機能に関する一考察」『言語文化と日本語教育』16, pp.58-69 範囲、対象は明記しているが、特に定義はしていない。 自己発話と他者発話の双方を扱う。直前反復と非直前反復の双方を対象としている。類義語も対象としている。指示表現は反復の対象とする。「言う」「ある」「いる」などの無性格語は対象外とする。 反復のサイズを2つ設けている(発話の単位と同じサイズ・発話内で意味のまとまりをもつ分節可能なサイズ)。
岡部悦子 岡部悦子(2003)「課題解決場面における「くり返し」」『早稲田大学日本語研究教育センタ-紀要』16,pp.97-116 直前の他者の発話の全部、あるいはその一部を、次の話し手がそれと同じイントネーションで再現している部分 直前の発話のすべての「くり返し」、直前の発話の一部の「くり返し」を対象とする。「質問・応答」「言い換え・要約」は対象外とする。 課題解決場面における「くり返し」を扱った研究であり、3つの機能に分類している。
黒川直子 黒川直子(2007)「日本語の談話における繰り返しについての考察」『ICU 日本語教育研究』3, pp.65-79 ※自己発話のくり返し/他者発話のくり返し をそれぞれ定義づけている。   他者発話のくり返しはTannen(1987)を引用している。
田中妙子 田中妙子(1997)「会話における<くりかえし>-テレビ番組を資料として-」『早稲田大学日本語研究教育センター紀要』9,pp.47-67 語形 ・意 味 の 面 で 先 行 発 話 と ほ ぼ 同一 の 表 現 で あ る もの 「「くりかえ し」に隣接する現象領域としての「要約」や「言い換え」との差を考えな ければならない」という言及がある。 他者発話のみを対象としている。また、「くりかえし」は「事柄的な情報量としては会話の相手の発話に加えるものがない」という条件も伴うものとしている。
スケンデル=リザトビッチ マーヤ スケンデル=リザトビッチ マーヤ(2017)「日本語母語話者が道を教える際の道順説明の反復-母語場面と接触場面を比較して-」『言語文化と日本語教育』52,pp.11-20 既出発話と道順上の同じ命題を持ち、既出発話の名詞、動詞、形容詞、副詞という内容語を反復する(完全一致反復、部分的反復、言い換え、意味的反復、補足反復を含む)発話 完全一致反復、部分的反復、言い換え、意味的反復、補足反復を含む ※「道を教える側の反復の定義」である。

 

 

 〈作成者:けんてぃ〉

文字コミュニケーション

 

社会生活を営む人間の間で知覚・感情・思考の伝達が行われる際、意味を持つ符号や記号を媒介とするコミュニケーション¹。テキストコミュニケーション。 ⇔音声コミュニケーション。

 

 

目次

1.起源

2.変化

3.音声コミュニケーションとの比較

 3-1.情報の正確さ

 3-2.気持ちの伝わりにくさ

 3-3.記録性の高さ

 3-4.音声より安心感に関して

4.音声コミュニケーションとの関係

 4-1.伝達のプロセス

 4-2.文字と音声の混合

5.分類

 5-1.文字コミュニケーションの関係図

 5-2.媒体による文字コミュニケーション

 5-3.スタイルによる文字コミュニケーション

6.参考文献

7.出典 脚注

8.関連項目

 

 

1.起源²

文字の起源については人類学、考古学、心理学などの立場から種々の考察があるが、数百万年にわたる人類の歩みの中で、ある時期からシンボル、サインの操作を理解するようになり、その一部が最終的には言語的文字になった。そしてそれらは次に古代オリエント文字とつながった。その古代文字は大多数が絵文字から出た(ピクトグラム)と言われている。要するに、音声コミュニケーションが主な交流手段である古代では、文字が成形されていなくても、例えば、地面に絵を書くのような文字コミュニケーションは既に始まっていると考えられる。

 

 

2.変化

文字コミュニケーションは時間の流れとともに変わっている。最初の、土に絵を書くのような文字コミュニケーション→骨、木材、石や布に絵や記号を掘る文字コミュニケーション→紙媒体の文字コミュニケーション→紙やネット媒体が主流になった文字コミュニケーションの流れとして変化してきた。

現在、インターネットの発展やスマートフォンの普及につれて、従来の書籍、手紙、はがきなどのような手で書くという文字コミュニケーションから、インタネット(SNS)を通して打つという文字コミュニケーションへ変わりつつある。

 

 

3.音声CMとの比較

3-1.情報の正確さ³

文字コミュニケーションが会話よりも優れている点は、情報を正確に伝えることができる。会話では聞き間違えがおきやすい言葉でも、文字にすると伝わりやすくなる場合がある。

 

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                                                                     図1

 

3-2.気持ちの伝わりにくさ

音声コミュニケーションと比べ、顔の表情や声のトーンなどの情報がないため、微妙なニュアンスが伝わりにくく、誤解が生まれることがある。文字でメッセージを伝えるには、誤解を生むようなきっかけを作らぬよう、かなり言葉選びに技術が必要となる。文法的な間違いや、 先述の語調の欠如などが、伝えたい内容の本当の意味を、傷つけてしまうことになるやもしれない。

 

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                                                                     図2

 

3-3.記録性の高さ

メッセージのやり取りの中で、話した内容を記録する必要がある場合には、文字でのやりとりが、音声通話より有利。ウェブ電話や電話での通話を録音することも、もちろん可能だが、文字でのやりとりは、そのやり取りそのものが記録となれる。 関係者ひとりひとりが、この記録を所持することにもなり、あるポイントについての内容を探したいときにも、憶測を気にしなくてよい分、文字の記録をめくる方がより簡単。

 

3-4.音声より安心感に関して

話し手の表情、仕草などを分からない非対面の文字コミュニケーションの場合、文字コミュニケーションは音声コミュニケーションより安心感が低い。

 

 

4.音声コミュニケーションとの関係

 4-1.伝達のプロセス⁴

音声の場合:

【自分】感情 → 言語化 → 発声 → 伝達 → 言語化 → 理解【相手】

文字の場合:

【自分】感情 → 言語化 → 書き起こし → 文章化 → 投稿 → 読む → 言語化 → 理解【相手】

 

4-1.文字と音声の混合

インタネットを通す音声電話かビデオ電話あるいは対面で会話をしながら、音声によって写真、間違いやすい数字や難しい単語だけを文字で伝えるコミュニケーションがよくある。

 

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                                                                    図3

 

 

5.文字の種類

5-1.文字コミュニケーションの関係図

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                                                                     図4

 

狭義の定義では、文字コミュニケーションには絵文字、顔文字、記号、絵などを含まれていない。

 

 

5-2.媒体による文字コミュニケーション

1)PCやスマートフォンにおける「打つ」による文字コミュニケーション

2)本や紙などに印刷されるものによる文字コミュニケーション

3)紙上の手書きによる文字コミュニケーション

4)木、金属に刻まれたものによる文字コミュニケーション

など

 

5-3.スタイルによる文字コミュニケーション

下記の文字のプロトタイプ図から文字コミュニケーションのスタイルを見る。

 

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                                                                     図5

 

 

6.参考文献 

梅棹忠夫ほか(監修)(1989) 『日本語大辞典』(カラー版) 講談社

加藤由樹ほか(2008) 「テキストコミュニケーションにおける受信者の感情面に及ぼす感情特性の影響 -電子メールを用いた実験による検討-」 日本教育工学学会論文誌 31(4),403-414,2008

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/31/4/31_KJ00004964312/_pdf/-char/ja

佐藤喜代治ほか(編)(1996) 『漢字百科大辞典』 明治書院 

中島平三(編)(2014) 『言語の辞典』 朝倉書店

平成27年版情報通信白書』特集テーマ「ICTの過去・現在・未来」

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc122330.html

山本昭(1998) 「専門コミュニケーションにおける言語と非言語 -ターミノロジーの視点から-」 情報知識学会第6回研究報告会議講演論文集(1998.5.23)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsikproc/6/0/6_11/_pdf/-char/ja

 

7.出典 脚注

¹ ウィキペディアの「コミュニケーション」を参考して定義したもの。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

² 中島(2014)を参考して編集したもの。

³ 保護者・教職員向け啓発資料(12)を引用したもの。

https://webreport.pit-crew.co.jp/fukuoka_city_netpatrol/img/r27.pdf#search=%27%E6%96%87%E5%AD%97%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%89%B9%E5%BE%B4%27

⁴ ブログ「ぐるりみち」を引用したもの。

  https://blog.gururimichi.com/entry/2014/09/10/223532

 

 

8.関連項目

言語

文字

非言語表現

コミュニケーション

音声コミュニケーション

メディアコミュニケーション

マスコミコミュニケーション

テキストコミュニケーション

非言語コミュニケーション

マルチモーダルコミュニケーション

 

 

〈作成者:みお〉

日本語教科書

1.見出し語

【日本語教科書】

(1)日本語教育現場で使用される「日本語教科書」とは

日本語教育学会(1982)『日本語教育事典』では、「日本語教科書」は次のように定義されている。 

「学習者の日本語学習目標の達成のための学習者用図書を日本語教科書という。日本語教科書の発行所から大別すると、次の二つになる。一つは各日本語教育機関であり、もう一つは日本語教育をしていないところである。(中略)日本語教育諸機関で、その機関の学習者のために作られた教科書は、その機関において、優れたものであればあるほど、他の異なった目的・目標等の学習者にとっては、使いづらいものになってくる。

(中略)出版社から発行されるものは、必ずしも特定の学習者を予想して編集されてはいない。そのため、どこででも使えるという普遍性を有する。しかし、これを使う場合、日本語教育機関のほうで学習時間を延ばしたり縮めたりせねばならず、教科書によってカリキュラムが変わることになる。」

 

以上の参考文献で定義された「日本語教科書」は、形態としては、現在は図書だけではなく、電子データでも存在している。また、「日本語教科書」を日本語学習のあるコースで使用する場合、上記の定義から、「日本語教科書」とコースデザインの間には、以下のような関係が考えられる。

 

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A.の場合は、日本語教育諸機関において、学習者の目的・目標・学習期間など様々な条件からコースデザインを行い、それに合わせた「日本語教科書」を作成するモデルである。

B.の場合は、学習者の実態になるべく近い、日本語学習機関以外の団体が作成した「日本語教科書」を選定して使用するモデルであり、教科書の内容に合わせたコースデザインが行われるため、選定した教科書によって学習機関のカリキュラムが影響を受けることが予想できる。

 

(2)「日本語教科書」と様々な「教科書」の区別について

あらゆる教育現場において、教授者、または学習者によって様々なものが「教科書」として認識されるだろう。例えば、小説や絵本を「教科書」として捉え、それを用いて日本語を学習すれば、それを用いた教授者、または学習者にとって、その小説や絵本は「日本語教科書」と同等の価値のものとして捉えられるかもしれない。また、海外の補習校などでは、日本の学校機関で使用される国語教科書が、日本語学習を目的に使用される場合もあり、その際に国語教科書を「日本語教科書」と認識すべきかどうかという疑問も起こるだろう。

しかし、国際交流基金(1983)『教科書解題』によれば、「日本語教科書」は、日本語教育の「あるメソッドに基づいて作られている。つまり、あるメソッドを具現化したものが教科書である、と言える。」とある。

これに基づき、ここでの「日本語教科書」は、日本語を学習する目的のため、あるいは日本語教育のあるメソッドに基づき作られたもののこととする。つまり、上に述べたような、補習校などの例の場合は、国語教科書を「日本語教科書」の代わりに使用している、という捉え方をする。

 

(3)「主教材」と「日本語教科書」

日本語教育現場では、学習者の学習状況やニーズに基づき、時に「日本語教科書」だけではなく、教授者の判断でプリントや問題集等の学習を助けるための教材も同時に使用される場合がある。そういった時に「日本語教科書」の事を「主教材」、その他学習を助けるために使用される教材の事を「副教材」と呼ぶことがある。

国際交流基金(2008)『国際交流基金 日本語教授法シリーズ 第14巻「教材開発」』では、「日本語教科書」「主教材」「副教材」に関して次のように解説している。

 

「デザインされたコースで主に使う教材を「主教材」、「主教材」を補うために使われる教材を「副教材」、教室活動を助けるために使われる道具を「教具」と呼ぶようになり、多様な教材や教具が作成されるようになったのです。中等教育のように、コースの中で1つの教材しか使用できない場合は、「主教材」を「教科書」と呼ぶことが多いようです。」

 つまり、学習機関・コースによっては、「日本語教科書」と「主教材」は同様の意味として使用されることがあり、この二つは類義語と言えるだろう。

 

 

2.関連語

【日本語教材】

『日本語キーワード事典』(1997)に「教授活動及び学習活動を支援するための材料」とあるように、教授者が日本語学習のために使用するものを「日本語教材」と捉えるなら、図書や印刷物だけではなく、音声、映像、レアリア(生教材・実物教材)などのあらゆるものが「日本語教材」になり得るだろう。

しかし、河原他(1992)『日本語教材概説』では、日本語教材を「日本語で書かれたすべての物、日本語で語られたすべての物が日本語教育の素材となる可能性を持ってはいるが、素材全てが教材になるものでもない。」とし、「一連の言語表現で、教育的価値・教育的な内容を有する物で、目的に到達するまでの各コースの目標に沿って、適当な位置に適当な量で、配列されているもの」と定義している。

つまり、全てのものが「日本語教材」になり得るのではなく、ある日本語コースやひとまとまりの授業の中で、教授者が何らかの学習目的に基づいて用意したものが「日本語教材」として日本語教育活動の中で認識されると考える。

また、様々な物が「日本語教材」となる可能性を持つが、『日本語教育事典』(1982)では、「日本語教材」を「それ自身言語的表現を持つ言語的教材と、絵や人形のように音声・文字を持たない非言語教材に分けることができる。」とし、次のように分類している。

 

1)形態による分類:

言語的教材―図書(教科書を含む)、カード、音声テープ、ビデオ、CD、Web教材など

非言語教材―実物、模型、写真、地図など

 2)学習目標(技能)による分類:

読解教材、漢字教材、聴解教材など

 3)レベルによる分類:

初級、中級、上級、JLPT N5レベル、JLPT N4レベルなど

 4)学習者の学習目的や専門分野による分類:

短期ビジネスマン用、旅行者用、留学生用、医療系用など

 

 

3.見出し語と関連語の関係

 教授活動において学習目的で使用される物を「日本語教材」とするなら、「日本語教科書」と「日本語教材」の関係は次のように捉えられるだろう。

 

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4.参考文献

原崎幹夫、吉川武時、吉岡英幸(1992)『日本語教材概説』北星堂書店

小池清治、小林賢次、細川英雄、犬飼隆(1997)『日本語学キーワード事典』朝倉書店

国際交流基金(2008)『国際交流基金 日本語教授法シリーズ 第14巻「教材開発」』ひつじ書房

国際交流基金(1983)『教科書解題』国際交流基金

日本語教育学会(1982)『日本語教育事典』大修館書店

吉岡英幸・本田弘之(2016)『日本語教材研究の視点―新しい教材研究論の確立をめざして』

 

 

〈作成者:橋本 愛子〉

母語

目次

1.定義

2.概説

3.参考文献

 

 

1.定義

人が生後、初めて身につけた言語を表す用語。その他(習得順序以外)の基準の関与については諸説あり、詳細は概説に記述する。

 

 

2.概説

 2.1. 一般用語としての「母語

一般的に、母語は人が幼児期に自然に身につけた言語という意味で使用されている(岩波国語辞典,2009;広辞苑,2018;明鏡国語辞典,2010)。そして、岩波国語辞典(2009)、明鏡国語辞典(2010)では、前述の意味に加え、同じ系統に属す諸言語の元となる言語、祖語。という意味も記述されている。これは、「歴史的にみれば、この母語という認識は、ローマ帝国支配下において唯一の書き言葉であったラテン語と対等することによって生まれた。」(日本語大辞典(下),2014;p.1900)とされたという点が反映されている。

 

2.2.田中克彦による「母語」の定義

言語学者の田中(1981)は、ことばと人間の関係性に注目し、「生まれてはじめて出会い、それなしにしては人となることができない、またひとたびに身に着けてしまえばそれから離れることのできない、このような根源のことばは、ふつうは母から受け取るのであるから、「母のことば」、短く言って「母語」と呼ぶことにする。」(p.29)としている。ことばについての議論がしばしば母と子の関係を通り越し、国家や政治と結びつくことから始まることを指摘し、母語は「いかなる政治的環境からも切り離し、ただひたすらに、ことばの伝えてでる母と受け手である子供との関係でとらえたところに、この語の存在意義がある」(p.41)とし、国家と結びつく「国家語」との区別も示している。

 

2.3. 専門用語として用いられる「母語

前述のとおり、母語を指す言語を決定する際の基準には諸説ある。これについて、言語学者のSkutnabb-Kangas,T.(1981)は、母語を捉える際にこれまでに用いられてきた基準を次のようにまとめている。

 

origin

起源

the language one learnt first (the language in which on established one’s first lasting communication relationship)

はじめて学んだ言語(自分の最初の言語コミュニケーション関係を確立したもの。)

sociology

社会学

competence

能力

the language one knows best

最もよく理解している言語

linguistics

言語学

Function

機能

the language one use most

最もよく使用する言語

sociolinguistics

社会言語学

Attitudes

態度

the language one identifies with (internal identification)

the language one is identified as a native speaker of by other people (external identification)

自身が帰属意識を持つ言語

他者からネイティブスピーカーと見られる言語

social psychology

社会心理学

sociology

社会学

Skutnabb-Kangas,T. (1981)p.18を参考に筆者作成、筆者訳

 

第二言語習得研究においては、チョムスキーの普遍文法(Universal Grammar)が大きな影響を与えてきた(山岡,1997)。普遍文法では、人間は生まれながらにして言語一般についての知識(言語機能)を持っているとする。それにより子どもは個別言語が使われる環境の中で数年のうちに無意識に使うことができる母語を習得するという(井上・原田・阿部,1999;中村・金子・菊池,1989)。つまり、普遍文法における母語は、国籍や人種、民族などは考慮しない。そのため、この理論に大きな影響を受けてきた第二言語習得研究における母語の定義にもアイデンティティといった基準は含まれず、上記で示した起源と能力が基準となると考えられる。第二言語としての日本語教育に関する文献においても、母語を「幼児が最初に習得する言語。母語話者は、語句の使い方や文の構成について直観的に正しいかどうか判断できる。」(高見澤など,2016;p.8)と説明している。

 

一方、幼少の頃に国や地域の移動し、いちばん初めに覚えた親の言語が社会的少数派言語となった場合、その言語の保持は難しく、最もよく理解できる言語、最もよく使用する言語とは言い難い。そのため、社会的少数派となった「親の母語を子に伝えるための教育支援」(中島,2017:p.2)を行う継承語教育においては、母語の定義を「はじめて覚えたことばで、今でも使えることば」(中島,2003;p.1)としている。

 

また、社会言語学の観点からは、「多言語社会のなかでは、「母」のことばがこどもの「母語」とならないこともあるし、こどものとき身につけた言語が、かならずしも大人になっても頻繁に使用する言語とはならないこともある」(イ,2009;p.214)という点や、母語に感情的な価値づけが付随しているという母語イデオロギー性を指摘し、母語第一言語が意図的に区別されることが述べられている(イ,2009;ましこ,2001)。

 

 

3.参考文献

イヨンスク(2009)『「ことば」という幻影―近代日本の言語イデオロギー』,明石書店

井上和子・原田かづ子・阿部泰明(1999)『生成言語学入門』,大修館書店.

藤武義・前田富祺(編)(2014)『日本語大辞典』,朝倉書店.

北原保雄編(2010)『明鏡国語辞典』第二版,大修館書店.

高見澤孟・ハント蔭山裕子・池田悠子・伊藤博文・宇佐美まゆみ・西川寿美・加藤好崇『新・はじめての日本語教育Ⅰ[増補改訂版]日本語教育の基礎知識』,高見澤孟監修,アスク出版.

田中克彦(1981)『ことばと国家』岩波書店

中島和子(2003)「JHLの枠組みと課題 -JSL/JFLとどう違うか」『母語・継承語・バイリンガル(MHB)教育研究会』プレ創刊号.pp.1-15.

中島和子(2017)「継承語ベースのマルチリテラシー教育 ―米国・カナダ・EUのこれまでの歩みと日本の現状―」『母語・継承語・バイリンガル(MHB)教育研究会』13.pp.1-32.

中村捷・金子義明・菊池朗『生成文法の基礎―原理とパラミターのアプローチ』

新村出編(2018)『広辞苑』第七版,岩波書店

西尾実岩淵悦太郎水谷静夫編(2009)『岩波国語辞典』第7版,岩波書店

ましこひでのり『増補版イデオロギーとしての「日本」』,三元社.

山岡俊比古(1997)『第二言語習得研究〈新装改訂版〉』,桐原ユニ.

Skutnabb-Kangas, T.(1981). Bilingualism or not: the education of minorities. Clevedon, Avon: Multilingual Matters.

 

 

〈作成者:中森 真理子〉