日本語教育Wikipedia

早稲田大学大学院日本語教育研究科小林ミナ研究室に所属する大学院生,あるいは,担当授業の履修生が日本語教育に関する専門用語について調べた内容を記述するサイトです。教育活動の一環として行っているものですので,内容について不備不足がある場合がありますのでご注意ください。記事の内容の著作権は,各記事末尾に記載してある作成者にあります。

シラバス

日本語教育における、シラバス(syllabus)には二つの意味がある。一つは、「クラスの構造,目標,目的,履修条件,成績決定方法,教材,カバーされる内容,スケジュール,参考図書などを記述した文書で、教師と学習者のあいだの契約のような役割を果たすもの」(當作, 2015, p.754)であり、一つは、「教育方法、あるいはクラスの教育・習得内容(たとえば,文法構造,文パターン,機能,トピックなど)とその構成を示したもの」(當作, 2015, p.754)である。主に日本語教育シラバスと使う場合、後者の習得内容とその構成を示したもの(教授細目)を指すことが多い。一方、主に学校教育でシラバスと使う場合、前者の契約のような役割を果たすもの(授業計画)を指すことが多い。また、一般にシラバスとカリキュラムを、同義語として扱い、使い分けされない場合も多い。

 

 

目次 

1 主に学校教育で利用されるシラバス(授業計画)

2 主に日本語教育で利用されるシラバス(教授細目)

 2.1 原型シラバスシラバスインベンタリー)(syllabus inventory)

 2.2 コースシラバス(course syllabus)

 2.3 シラバスの分類

  2.3.1 構成方法による分類

  2.3.2 決定時期のよる分類

3 カリキュラムとシラバスの関係

 3.1 カリキュラム(Curriculum)

 3.2 カリキュラムとシラバスの違い

4 表記のゆれについての補足

 4.1 「・」(なかぐろ)の有無

 4.2 複数表記(日本語訳表記とカタカナ語表記など)

5 関連項目

 

 

1 主に学校教育で利用されるシラバス(授業計画)

主に学校教育で利用されるシラバスの定義は以下のとおりである。シラバスとは、「授業科目の詳細な授業計画」であり、「授業名、担当の教員名、講義の目的、到達目標、各回の授業内容、成績評価の方法や基準、準備学習の内容や目安となる時間についての指示、教科書・参考文献、履修条件などを記載」したものを指す(文部科学省, 2012)。学校が、このような情報を提示することで、学生が授業を選びやすくことがよいとされている。

 

 

2 主に日本語教育で利用されるシラバス(教授細目)

主に日本語教育で利用されるシラバス(以下、特に断りがない場合、主に日本語教育で利用されるシラバス(教授細目)を、シラバスと書く)の定義は以下のとおりである。シラバスとは、「学習すべき項目のリスト」(小林,2010,p.39)のことを指す。例えば、教授細目一覧などがある。特に、シラバスを作成する作業のことを、シラバスデザインという。広義のシラバスには、原型シラバスと、コースシラバスの二つを含む。日本語教育で一般に、シラバスという場合、狭義のコースシラバスを指すことが多い。

 

2.1 原型シラバス(syllabus inventory)

原型シラバスシラバスインベンタリー)とは、シラバスの中でも、あるシラバス(構成方法による分類)で扱う全ての教授細目を網羅的にリストアップしたものをいう。例えば、漢字シラバスを想定した場合、常用漢字表といった、全ての漢字を網羅的にリストアップしたものがこれに当たる。このように原型シラバスは、網羅的なリストであるため、特定の学習者を想定すると、「簡単すぎるもの/難しすぎるもの、必要なもの/不要なものなどが一緒くたに並んでいる」(小林,2010,p.39)ことになる。

 

2.2 コースシラバス(course syllabus)

コースシラバスとは、シラバスの中でも、当該のコースで教える教授細目を選別してリストアップしたものをいう。例えば、漢字シスバスを想定した場合、学年別漢字配当表といった、教える項目を選別したものがこれにあたる。教科書も一つのコースシラバスとなる。原型シラバスから、コースシラバスを決める作業のことを、シラバスデザイン(syllabus design)あるいは、シラバスの刈り込みという。また、コースシラバスは「必ずしも学習する順番でならんでいるものではない」(小林,2010,p.40)ことに注意が必要である。

 

2.3 シラバスの分類

シラバスの分類には、リストアップする項目の種類による分類、決定時期による分類の二つがある(篠﨑,2012,p.124)。ここでは、リストアップする項目の種類を、構成方法による分類として記載する。

 

2.3.1 構成方法による分類

構成方法により分類するシラバスには以下のようなものがある。

 

構造シラバス(structural syllabus)

文法シラバス(grammar syllabus)

概念シラバス(notional syllabus)

機能シラバス(functional syllabus)

技能(スキル)シラバス(skill syllabus)

場面シラバス(situational syllabus)

話題(トピック)シラバス(topic syllabus)

タスクシラバス(task syllabus)

折衷シラバス(mixed syllabus)

((小林,2010,pp.40-43)(篠﨑,2012,pp.124-125)を元に筆者が作成)

 

 

2.3.2 決定時期のよる分類

決定時期により分類するシラバスには以下のようなものがある。

 

先行シラバス(a priori syllabus)

後行シラバス(a posteriori syllabus)

可変(プロセス)シラバス(process syllabus)

(小林,2010,pp.44-46)(篠﨑,2012,pp.125-126)を元に筆者が作成)

 

 

3 カリキュラムとシラバスの関係

一般に、カリキュラムとシラバスを同義語として扱い、使い分けされない場合もある。ここでは、カリキュラムとシラバスの違いについて整理する。

 

3.1 カリキュラム(Curriculum)

カリキュラムとは、当該のコースで、決定したシラバスを「いつ、どのように教えるか」(小林,2010,p.47)をまとめたものをいう。カリキュラムを決める作業のことをカリキュラムデザインと呼ぶ。カリキュラムデザインは、コースデザインの一連の流れとして行われ、コースのニーズに応じて内容を決定する。

 

3.2 カリキュラムとシラバスの違い

主に日本語教育で利用されるシラバス(教授細目)が、教授項目のリストであるのに対し、カリキュラムは、教授項目を、いつ、どのように教えるか、をまとめたものである。例えば、教室活動でいうと、使うべき教科書を選定し、その教科書から教えるべき単元を選別したものがシラバスとなる。そのシラバスを、いつの授業で教えるか、どのように教えるかをまとめたものがカリキュラムとなる。主に学校教育で利用されるシラバス(授業計画)が、カリキュラムに近い。

 

 

4 表記のゆれについての補足

シラバスの関連用語には、表記のゆれが多く存在する。ここでは次の二つの表記方法を取り上げて補足する。

 

4.1 「・(なかぐろ)」の有無

シラバス」という語と、それに先行あるいは、後続する語と間に「・(なかぐろ)」を置く場合と置かない場合がある。本項目では、「・(なかぐろ)」がない形で統一した。例えば、コースシラバスについては、「コース・シラバス」と「コースシラバス」の二つの表記方法があるが、ここでは「コースシラバス」と記した。

 

4.2 複数表記(日本語訳表記とカタカナ語表記など)

各種表記で、日本語訳表記を使う場合とカタカナ語表記を使う場合など、複数の表記方法がある場合がある。その場合、一方を平文で記し、他方を括弧書きで付した。特に、日本語訳表記とカタカナ語の複数表記の場合、日本語表記を平文で記し、カタカナ語表記を括弧書きで付した。例えば、可変シラバスは、「プロセスシラバス」と「可変シラバス」の二つの表記方法があるが、ここでは、「可変(プロセス)シラバス」と記した。平文と括弧書きの表記は、便宜的に選択したものであり、どちらが主に利用されているかといった観点で評価したものではない。

 

 

5 関連項目

・カリキュラム

・コースデザイン

 

 

参考文献

小林ミナ(2010)『日本語教育能力検定試験に合格するための教授法37』アルク.

篠﨑大司(2012)「言語と教育」日本語編集チーム(編)『日本語教育能力検定試験に合格するための用語集』pp.111-175.

當作靖彦(2005)「シラバス日本語教育学会(編)『新版日本語教育事典』、pp.352-354.

文部科学省(2012)「Q3 日本の大学の現状について、『授業に出席しなくても単位が取れる』『勉強しなくても簡単に卒業できる』などの声を耳にしますが、これについて大学はどのような対策を講じているのでしょうか。」http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigaku/04052801/003.htm(2019年2月1日閲覧).

 

 

〈作成者:大崎 健一〉