日本語教育Wikipedia

早稲田大学大学院日本語教育研究科小林ミナ研究室に所属する大学院生,あるいは,担当授業の履修生が日本語教育に関する専門用語について調べた内容を記述するサイトです。教育活動の一環として行っているものですので,内容について不備不足がある場合がありますのでご注意ください。記事の内容の著作権は,各記事末尾に記載してある作成者にあります。

動機づけ

目次

1.「動機づけ」の定義

2.「動機づけ」の関連語

3.「動機づけ」と関連語の関係

4.参考文献

 

 

1.「動機づけ」の定義

Motivationの訳語。

心理学の学術用語としてのmotivationは、人間が、期待される結果にもとづいて、ある行動を選択し、いくつかの方策を用いてそれを実行する、一連の要因およびプロセスである。(Heckjausen1991:9,岡2017訳)

 

「動機づけ」の定義について、研究者によって異なる。

論文

定義づけ

桜井(1997)

ある目標を達成するために行動を起こし、それを持続し目標達成へと導く内的な力。

速水(1998)

ある目標追求行動の生起から終結までを支える、感情も認知も、価値も期待も取り込んだ総合的なエネルギー。

文野(1999)

学習動機を持たせるように勧める要因。

守谷(2004)

人がなぜあることを行おうと決心し、それをいかに熱心に追求し、またいかに長く持続するのかという、人間の行動の方向と程度に関わるもの。

市川(1995)

目標を達成するために行動を方向づけて維持するもの。

西部(2009)

行動への傾斜を外から客観的に捉える時に用いる用語。

大西(2010)

人間の行動の方向と規模を決めるもの。

大西(2014)

人がある状況下で、何らかの行動をとる際の行動選択の過程やその行動を維持するためのプロセス。

 

以上の動機づけの定義を踏まえた上で、動機づけとは

「人がある目標を達成するために行動を起こし、その追求行動の生起から終結までを支える、行動の方向と規模を決めるもの。」とする。

 教育が「教師主体」から、「学習者主体」にシフトした現在、習得に影響を与える学習者要因に関する研究が多く行われている。動機づけは、学習者要因の一つである。動機づけとは、様々な概念の集合体であり、単一概念としての動機づけは存在しないと考えられる。竹内(2010)は動機づけを以下のように分類している。

  1. 学習対象に関する興味や好感度
  2. 学習結果に関する期待感や満足感
  3. 学習過程に関するコントロール感や信念
  4. 学習者を取り巻く環境の切迫感
  5. 学習者自身の理想像
  6. 承認されたいという欲求
  7. コミュニケーションしたいという意思

                                 大西(2014)

 

 

2.「動機づけ」の関連語

【関連語】動機 モチベーション 意欲 内発的動機づけ 外発的動機づけ 道具的動機づけ 統合的動機づけ

 

並列関係:

・動機

行動の目標や目的(質的側面)を規定するのは「動機」(motive)。「動機」に加え、実際の行動の強さ(量的側面)を規定するのは「動機づけ」(motivation)。

                              廣森(2010)

・モチベーション

物事を行うための、動機や意欲になるもの。消費者の購買動機や、スポーツ選手の意欲などに用いられることが多い。

 ・意欲

勉強や仕事という場面に限定する、あるいは日常的な語としてプラスの価値を含めて認識される。前者の勉強や仕事という場面に限定する場合は、学習に対するエネルギーを「学習意欲」、すなわち「意欲」に「学習」をつけた用語で表している。

日本語教育において心理学の理論を用いる時は「動機づけ」が使われることが多く、教育実践に比重を置く時は「学習意欲」が使われることが多い。

                              岡(2017)

 

上下関係:

国語学習に関する動機づけは、統合的動機づけ、道具的動機づけという二つのタイプに大きく分けられる。

・道具的動機づけ

試験に受かりたい、いい仕事につきたいということや、そのことばが上達すると社会的な地位が向上するから、などといった動機づけ。

・統合的動機づけ

目標言語を話す人々を理解したい、その社会に参加したいといった動機づけ。

 

教育学の分野での、より一般的な動機づけ分類に、内発的動機づけと外発的動機づけがある。

・内発的動機づけ

知りたいから勉強する、おもしろいから、楽しいからといった、自分自身の内面から出てくる動機づけ。

・外発的動機づけ

外部から来る動機づけで、報酬がもらえるから、褒められたいから、といったもの。

 

 

3.「動機づけ」と関連語の関係  

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4.参考文献

Heckhausen,H(1991) Motivation and Action,Berlin:Springer-Verlagl

岡葉子(2017)「日本語教育学における『学習動機』の概念についてーmotivationの訳語をめぐる問題―」東京外国語大学留学生日本語教育センター論集 no.43 p.19-32 紀要論文

廣森友人(2010)「動機づけ研究の観点から見た効果的な英語指導方法」小嶋英夫・尾関直子・廣森友人 編『成長する英語学習者-学習者要因と自律学習-』p.47-74,大修館書店

日本語教育能力検定試験に合格するための用語集』アルク出版

スーパー大辞林』第3版

桜井茂男(1997)『学習意欲の心理学―自ら学ぶ子どもを育てる』誠信書房

速水敏彦(1998)『自己形成の心理―自律的動機づけ』金子書房

文野峯子(1999)「学習過程における動機づけの縦断的研究―インタビュー資料の複眼的から明らかになるものー」『人間と環境―人間環境研究所研究報告』3,p.35-45.

守谷智美(2004)「日本語学習の動機づけに関する探索的研究―学習成果の原因帰属を手がかりとしてー」『日本語教育』120,p.73-82.

市川伸一(1995)『学習と教育の心理学』岩波書店

西部由佳(2009)「教室内外での出来事による学習者の『学習意欲』の変動とその背景となる心理的要因―『可能性の予期』に注目してー」『小出記念日本語教育研究会』17,p.21-32.

大西由美(2010)「ウクライナにおける大学生の日本語学習動機」『日本語教育』147,p.82-86.

大西由美(2014)「日本語学習者の動機づけに関する縦断的研究:日本語接触機会が少ない環境の学習者を対象に」北海道大学博士学位論文 p.14-20.

 

 

〈作成者:サイコウエツ〉