日本語教育Wikipedia

早稲田大学大学院日本語教育研究科小林ミナ研究室に所属する大学院生,あるいは,担当授業の履修生が日本語教育に関する専門用語について調べた内容を記述するサイトです。教育活動の一環として行っているものですので,内容について不備不足がある場合がありますのでご注意ください。記事の内容の著作権は,各記事末尾に記載してある作成者にあります。

意味(いみ)(英 Meaning, 仏 sens , 独 Bedeutung , Sinn)

目次

1.広義的な「意味」

2.「意味」と「意義」の使い分け

3.発話における「意味」

4.コミュニケーションにおける意味

5.関連項目

6.参考文献

 

 

意味とは、

①物事が持っている価値・重要さ

②言語・作品・行為によって表される意図・目的

③記号・表現によって表される内容 

 

 

1.広義的な「意味」 

 神保(1922)により「音声と文字とを言語の外形と名付け、意味を言語の「内容」と名付ける」と述べられている。また、神保(1922)では「意味」と「意義」ははっきり分けられていないため、ここでの意味は広義的な「意味」として使われている。石黒(2016)に掲載した図1が示しているように、一つの言葉には三つの側面があると考えられる。それぞれ語形、対象と意味である。もし、「犬」を例とすると、「犬」の言葉と実物の犬の間は意味で結ばれている。そのため、言葉と指している対象との関係は直接ではないため、原図を少し変えてでは点線で結ばれている。

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2.「意味」と「意義」の使い分け

ドイツ語の中では、意味に関する言葉は「Sinn」と「Bedeutung」二つある。『言語学大辞典』(1996)では、意味は二つのはっきり違ったものを指すことがあると示されて、以下のように述べられている。

                

その一つは発せられた音声によって表された現実の、具体的な精神内容であり、これはそれぞれの現実の発話(パロール)にユニークなものである。…このような意味を、ドイツ語ではSinnという。

一方、意味にはもう一つの意味がある。それは、具体的な発話を形成する個々の語または形式(form)の持っている意味で、ドイツ語ではBedeutungと行って、上のSinnと区別する。

 

これらを区別するために、日本語ではSinnを「意味」といい、Bedeutungを「意義」という提案がなされた。Sinn(意味)はそれぞれのBedeutungによって喚起された観念と、それと連合した他の観念や、言語外の要件によって生じた観念などによって作り出されるものだから、Bedeutung(意義)の総和より成立するのではない。

 

 

3.発話における「意味」

 服部(1953)では、「文や単語(形式)の意味は、このように抽象的なものであるから、発話の具体的な「意味」と区別して、文の「意義」、単語の「意義素」と呼ぶこととする。」それに、服部(1968)では発話の意味について明確な定義をされた。「発話の「意味」すなわち【音声的側面に対する】意味的側面とは、発話者の直接経験のうち、彼がその発話によって表出しようとした面と定義する。」服部が提唱した用語とその定義、またそれについての意味的側面にあたる名称を表1にまとめた。

 

        表1   発話・文・単語の定義とその意味的側面

 
 

用語

定義

意味的側面

発話(utterance)

話をするという一続きの出来事である。

意味

文(sentence)

言語作品は一つあるいはそれ以上の「文」より成る。文はその末尾を示す音調型を持っており、文に該当する発話断片は音休止によって、その前後を限られるのが常である。

意義

単語(word)

最小の「自由形式(free form)」である。自由形式とは離して、すなわちその前後に音休止をおいて発音された発話断片に該当し得る形式をいう

意義素

 

 

 

4.コミュニケーションにおける「意味」

 コミュニケーションの中の意味とは何かについて、田中・深谷(1996)では「ここでの「意味」は、まず何よりも、それぞれの人によって意味づけされる意味、つまり《意味づけする者にとっての意味》である」と述べられている。

また、八代等(2009)では、「コミュニケーションの根本はバーンランドの言葉を借りれば、「意味の創造」であり、異文化コミュニケーションは類似点よりも相違点に特徴づけられる人々が共通の意味を形成するという、共同作業のプロセスであると言える。」のように述べた。つまり、コミュニケーションの中での意味は誰かから意味が生まれることではなく、共同作業で意味を完成させると言っている。田中・深谷(1996)の中では会話モデルを図2のように示されている。このような繰り返しで、コミュニケーションの中の意味が構築される。

 

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5.関連項目

 意義

意義素

意味変化

意味論

語彙

コミュニケーション

 

 

6.参考文献

 石黒圭(2016)『語彙力を鍛える 量と質を高めるトレーニング』光文社新書

亀井等編(1996)『言語学大辞典 術語編』六巻 三省堂 

国広哲弥(1970)『意味の諸相』三省堂

藤武義・前田富祺編(2014)『日本語大辞典(上)』朝倉書店

神保格(1922)「意義のこと」『言語學概論』岩波書店 pp.60-69

田中茂範・深谷昌弘(1996)『コトバの〈意味づけ論〉』紀伊国屋書店

新村出編(2018)『広辞苑』第七版 岩波書店

服部四郎(1953)服部四郎「意味に関する一考察」『言語研究』二二・二三号 日本言語学会

服部四郎(1968)「意味の分析」『英語基礎語彙の研究』三省堂 pp.3-14

服部四郎(1968)「意味」『岩波講座哲学11言語』岩波書店 pp.292-338

服部四郎(1974)「意味素論における諸問題」『言語の科学』五号 東京言語研究所

森田良行(1996)『意味分析の方法』ひつじ書房

八代京子等(2009)『異文化トレーニング」』三修社

 

 

〈作成者: 謝 霄然〉