教育学 における「関係性」
【定義】
関係性 かんけいせい / relationship
➙一般用語としての定義
・『実用日本語表現辞典』
関係しているということ。または、関係している度合い。単に「関係」と換言可能な場合も多い。
➙教育学的定義
・川久保(2013:164)
関係性とは、本来的に冗長(Redundant)なものである。その冗長さゆえ、関係性はこじれた場面、思い通りにいかない場面でしか前景化しない。関わる、面倒をみるといった事実確認的(Constative)な水準では意識されず、「関ずらう」場面、「面倒くさい」場面において行為遂行的(Performative)にしか立ち現れない。
平たく言えば、「関わる」ということは、ものごとの特定の状態についての説明ではなく、現実に行っている様の表現であって、さまざまとした行為が伴わなければ、それは「関わる」とは言えないということである。
➚解説
・『医療人類学辞典』
事実確認的発話は、その真偽において評価される。一方、行為遂行的発話は、その適切か不適切ということが評価基準となる。
【関連語】
教育学における「関係」
[定義]
関係 かんけい
➙一般用語としての定義
・『広辞苑』
あることと他のことが、互いにかかわりあっていること。また、そのかかわり合い。Relation
あることが他のことに影響すること。また、その影響。Influence
2つ以上のものの間柄。つながり。Connection
➙教育学的定義
・川久保(2013:164)
関係とは、事実確認的な水準で意識され、想定されており、予定調和的な仕方で成り立っているものである。
[見出し語との関係]
・川久保(2013:164)
事実確認的な水準で意識される関係(Relation)が、とりたてて関係性(Relationship)というほどのものではない。
関係 |
関係性 |
事実確認的 |
冗長 |
想定されていて、予定調和的な仕方で成り立っている |
こじれた場面、思い通りにいかない場面で前景化し、行為遂行的に立ち現れる |
➚解説
・川久保(2013:167)
関係性が冗長なのは、たんにそこでの関心が相手の存在に向けられているからである。冗長さが生起するのは、相手が思い通りには行かない相手であるゆえに、関わらないわけにはいかないからである。
「思い通りにいくこと」を前提にした世界観は、「目的」に価値を置くアリストテリス的な世界観である。万物の合目的性を謳うアリストテリス的世界においては、すべての物事は、その在るべき状態(エネルゲイア)の実現に向けた準備状態(デュナミス)にある。例えば、種は成木に向けた、成木は建築材に向けた、建築材は建築物に向けた可能態としてある。したがって、事実確認的な関係が関係性というほどではないのは、そこでの関係が、目的を達成するための関係によることが判明する。正解に言えば、この水準での関係は、何らかの目的がなければ結ばれない。しかも、「目的」もまた一貫して事実確認的であるため、そこでは決して関係が冗長になることはない。事実に向けて一直線に突き進む「目的」には、こじれたり、からまったりなどの行為遂行にかかる停滞は、想定されていない。
[見出し語との文の違い]
①検索条件
検索文字列:関係性(検索結果3件)・関係(検索結果242件)
前文脈:友達
メディア/ジャンル:書籍、雑誌、新聞、白書、教科書、広報紙、Yahoo!知恵袋、Yahoo!ブログ、韻文、法律、国会会議録
期間:2000年代(2000~2008)
前文脈 |
検索文字列 |
後文脈 |
ものに言及した者が多かったのに対し、就学後は、「友達だから」というような相手との |
関係性 |
に言及した者が多かった。これは、就学前は他場面の行動がパーソナリティ特性から生じ |
仲のいい友達同士なのに、このような現象は何を意味するのではないでしょうか。これでは、友達 |
関係 |
が作れないのではないかとこちらが心配してしまします。さらに、放課後の部活などでも |
②検索条件
検索文字列:関係性(検索結果2件)・関係(検索結果355件)
前文脈:親子
メディア/ジャンル:書籍、雑誌、新聞、白書、教科書、広報紙、Yahoo!知恵袋、Yahoo!ブログ、韻文、法律、国会会議録
期間:2000年代(2000~2008)
前文脈 |
検索文字列 |
後文脈 |
a) に言葉にするのは難しい程ですね。10.ヨイトマケの唄/美輪明宏親子、恋人、友達。 b) 偏食や小食も、食材や調理法だけの問題ではなく、親子関係の結果でもあり、また新たな |
関係性 |
a) はなんでもいいんですけど、相手は見ていないところで、どれだけ大事な人のために―所 b) の源にもなりことを確信しました。そうして、「食と心理」を結びつけた視点から記事を |
が、子どもに向かうとき、児童虐待につながってしまうことも多々ある。あるいは、親子 |
関係 |
のみならず、夫との関係、家族との関係、本来助けあうべき近隣の母親たちとの関係にも |
③検索条件
検索文字列:関係性(検索結果2件)・関係(検索結果109件)
前文脈:教師
メディア/ジャンル:書籍、雑誌、新聞、白書、教科書、広報紙、Yahoo!知恵袋、Yahoo!ブログ、韻文、法律、国会会議録
期間:2000年代(2000~2008)
前文脈 |
検索文字列 |
後文脈 |
、典型的な父親と典型的な子ども、あるいは典型的な大学教師と典型的な学生などの間の |
関係性 |
を描くことにあった。そして、分析の後半では、人類学者はある社会の構造形体と別の社 |
っても、「学習指導要領」に反する決定をすることはできません。粉川― 教師と生徒の |
関係 |
が作れないのではないかとこちらが心においては単純に多数決の考えを持ってこられると非常に困りますね。現実にはあり得な |
【教育への示唆】
・川上(2011:167)
ことばの学びと関係性とが関係する。学習者はその学びの過程で、自らの周りにいる多様な他者と日本語で関係性を築くことになる。その過程で、学習者は日本語を使うたびに他者からの反応を得て、反応を得ることによってさらに日本語を習得していく。そのような日本語によるやりとりを通じて他者との関係性が変化していく。その変化に応じて、学習者にとっての複数言語との向き合い方が変化する。
・筆者の考え
なぜ「関係を築く」のではなく、「関係性を築く」のか、そして、なぜ「関係が変化していく」のではなく、「関係性が変化していく」のか。
川久保の議論により、「関係性」はものごとの特定の状態についての説明ではなく、さまざまな行為が伴う動態的なものではないだろうか。一方、「思い通りにいくこと」を前提としたら、「目的」に価値を置かないといけない。それを達成するために、いろいろな「関係」が成り立っている。また、動態的な「関係性」に対して、「目的」が先にくる「関係」は静態的だとは言えるだろう。
また、[「関係性」と「関係」との文の違い]から見ると(特に下線部)、学習者と周りにいる多様な他者との「関係」は友達同士でも、親子でも、教師と学生でも、そういう事実は簡単に変わらない。一方、他者とのかかわり合いによって、こじれたり、からまったりするうちに、既定されている「関係」での「関係性」は変化していくのではないかと考えられる。
【参考文献】
川上郁雄(2011)「「移動する子どもたち」のアイデンティティの課題をどう捉えるか」『「移動する子どもたち」のこどばの教育学』くろしお出版 PP.167-168
川久保学(2013)『関係性の教育倫理:教育哲学的考察』東信堂 PP.164-168
医療人類学辞典http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/000606nichi.html閲覧日2019年1月10日
現代日本語書き言葉均衡コーパスhttp://www.kotonoha.gr.jp/shonagon/search_form閲覧日2019年2月2日
実用日本語表現辞典http://www.practical-japanese.com/閲覧日2019年1月10日
〈作成者:徐 格逸〉