QOL −クオリティ オブ ライフ−
クオリティ オブ ライフ(英: quality of life、以下QOL)とは
目次
一般的な定義
質とは(マズローとロートンから)
医学における量と質
教育学における量と質
学習内容の量と質
学習という行為の量と質
概念の広がり
医学からのアプローチ
地理学からのアプローチ
教育学からのアプローチ
測定の試み
幸福尺度
尺度
関連項目
参考文献
一般的な定義
国際保健機関(World Health Organization:WHO)
1947 年、その健康憲章の中で,健康を「...not merely the absence of disease, but physical, psychological and social well-being」、すなわち、「...単に疾病がないということではなく、完全に身体的・心理的および社会的に満足のいく状態 にあること」と定義。
さらに、1998 年には、「spirituality」を健康を定義する概念の中に加えることを提案した。Spirituality を日本語に翻訳するのはなかなか難しいが、宗教的、霊的、実存的などと訳されている。
(土井由利子(2004)『特集:保健医療分野における QOL 研究の現状』「抄録 総論-QOL の概念とQOL 研究の重要性」J. Natl. Inst. Public Health, 53(3) )
- QOLとは=統一された解釈はない。(『東大がつくった高齢者の教科書長寿時代の人生設計と社会創造』東京大学恒例社会総合研究機構(編著)2017)
- 生命維持の過程から、自己実現、生きがいといった高次の心理的活動を含む多様な活動の束(森岡清美ほか1993)
- 「人生の質」または「生活の質」と訳す》広義には、恵まれた環境で仕事や生活を楽しむ豊かな人生をいう。狭義には、特に医療・福祉分野で、延命治療のみにかたよらずに、患者の生活を向上させることで、患者の人間性や主体性を取り戻そうという考え方。QOL。(2018/12/20参照『デジタル大辞泉』「見出し語:QOL」)
- 人々の生活を物質的な面から数量的にのみとらえるのではなく、精神的な豊かさや満足度も含めて、質的にとらえる考え方。医療や福祉の分野で重視されている。生活の質。人生の質。生命の質。 QOL 。(2018/12/20参照『大辞林 第三版』「見出し語:QOL」)
QOL概念化の試み
□マズロー(Maslow)の欲求段階説:QOLはひとの欲求がどの程度みたされているかということであるとも考えられます。通常は、第1段階の生理的欲求が満たされると第2
段階の欲求が生じます。どの段階まで、どの程度、欲求が充足されているかということとQOLは近似の概念であると考えることもできます。
参考:マズローの5段階欲求
第一段階:生理的欲求(生きる上で根元的欲求)
第二段階:安全欲求(生きる上で根元的欲求)
第三段階:親和の欲求(他者と関わりたい、同じようにしたいなどの集団帰属欲求)
第四段階:自我欲求(集団から価値ある存在と認められ、尊敬されることを求める認知欲求)
第五段階:(自分の能力、可能性を発揮し、創造的活動や自己の成長を図りたいと思う欲求)
□ロートン(Lawton,1983)の多次元モデル:QOL構成要素の具体的視点として高齢者のQOLモデル(グッドライフの4セクター)が有名である。
QOLを個人—環境と主観的評価—客観的評価という2つの次元を組み合わせで、1)行動能力 2)心理的幸福感 3)主観的な生活の質 4)客観的な生活の質 の4つの領域に分けて概念化している。
(『東大がつくった高齢者の教科書長寿時代の人生設計と社会創造』東京大学恒例社会総合研究機構(編著)2017)より
QOLの概念の広がり
1960年代までの医学的リハビリテーションや福祉では、ADLが意味する、歩行、摂食、衣服の着脱、洗面、入浴、排便といった日常生活における身辺動作の回復や介助という点のみが目指されてきた。(中谷茂一 ,2007)
【医学からのアプローチ】
/健康と直接関連のあり:身体的 状態,心理的状態,社会的状態,霊的状態,役割機能や全体的 well-being などが含まれる(土井由利子2004)
QOL(non-health related QOL:NHRQL)
/健康と直接関連のなし:環境や経済や 政治など,QOL のうちで人の健康に間接的に影響するが, 治療などの医学的介入により直接影響を受けない部分(土井由利子2004)
1.personal-internal(人-内的):価値観・信条, 望み・目標,人格,対処能力
2.personal-social(人-社会的):ソーシャル・ネットワーク, 家族構成,ソーシャル・グループ,経済状態,就業状態
3.external-natural environment(外的-自然 環境):空気,水,土地,気候,地理
4.external-social environment(外的-社会環境).文化施設・機会,宗教施設・ 機会,学校,商業施設・機会,医療施設・サービス,行政・ 政策,安全,交通・通信,社会的娯楽施設,地域の気質・人 口構成,ビジネス施設などが含まれる。
【地理学からのアプローチ】
「近接性を考慮したQOLの評価」(藤目 節夫1997)
QOLの評価/尺度研究
健康関連 QOLは、効用値などを測定する選考に基づく尺度と、健康を多次元的に測定するプロファイル型尺度に大きく分類される(池上・福原・下妻ら, 2001)
□世界保健機構 (World Health Organization ; WHO) /WHOQOL26
QOLを「個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準および関心にかかわる自分自身の人生の状況についての認識」と定義。
●疾病の有無を判定するのではなく、受検者の主観的幸福感、生活の質を測定する。
●身体的領域、心理的領域、社会的関係、環境領域の4領域のQOLを問う24項目と、 QOL全体を問う2項目の、全26項目から構成される。
●4つの領域とは
- 身体的領域
日常生活動作/医薬品と医療への依存/活力と疲労/移動能力/痛みと不快/睡眠と休養/仕事の能力
- 心理的領域
ボディ・イメージ/否定的感情/肯定的感情/自己評価/精神性・宗教・信念/思考・学習・記憶・集中力
- 社会的関係
人間関係/社会的支え/性的活動
- 環境領域
金銭関係/自由・安全と治安/健康と社会的ケア:利用のしやすさと質/居住環境/新しい情報・技術の獲得の機会/余暇活動への参加と機会/生活圏の環境/交通手段
(2019/02/03参照 http://www.kanekoshobo.co.jp/book/b183683.html 株式会社 金子書房「日本語版WHO QOL26」書籍紹介文)
□EuroQol(EQ・5D):選考に基づく尺度
「社会的機能、精神的機能、身体的機能、障害Jの4領域。
□MOS36-Item Short-Form Health Survey (SF・36):プロファイル型尺度
「身体機能、心の健康、日常役割機能(身体)、日常役割機能(精神)、体の痛み、全体的健康感、活力、社会生活機能Jの 8領域。
出典;(韓, 昌完2017)「琉球大学教育学部紀要」(90):pp.157−162
心理学などの分野から、幸福度を測定する尺度開発と、その検証への挑戦が試みられてきている。
関連項目
Well-being:
人々の望ましい存在のあり方を示している。社会的価値。平等、社会関係資本まで、
射程(Jordan, 2008)
welfare:
福祉(経済学的には、厚生):well(良い、満足のいく)とfare(やっていく)の合成語
(三重野卓2013)「応用社会学研究」№ 55. 175
欲求の変化
「世界的に幸福感が注目されている。これは、経済成長、および物的な充実が限界に達したことを意味している。競技の幸福感は、happinessを表し、広義の幸福感は、それとともに「生活の質」に関係するwell-beingを含む。(三重野 卓,2013)
「生涯学習とは「自己の充実や生活のこうじょうのために、人生の各段階での課題や必要に応じて、あらゆる場所、時間、方法により学習者が自発的に行う自由で広範な学習」を意味する。趣味や教養を身につけるといった自己完結的な学習とは違う。」
(『東大がつくった高齢者の教科書長寿時代の人生設計と社会創造』2017)
以上のように、社会環境の充足や、人生経験を積んだ世代の増加などの条件により、幸福感をもたらすコトやモノの変化をみることができる。それは、従来の医学的な系譜という枠だけでなく、広義に人生の質を考えると、(表1)に示される「領域2」への欲求の充足は今後ますます重要になると考えられる。人生の質のための学習のあり方についての研究の盛り上がりが期待される。
以上をまとめると、以下のことが言える。
QOLとは、「心理的には自己肯定感をもち、社会的には帰属による安心感があり、自己を成長させながら創造的で満足のいく状態である。」
したがって、日本語教育学では、学習動機に以上の条件を満たす学習者を「QOLの概念によった学習者」と定義できる。
参考文献
韓, 昌完(2017)「琉球大学教育学部紀要」(90):pp.157−162
土井由利子(2004)『特集:保健医療分野における QOL 研究の現状』「抄録 総論-QOL の概念とQOL 研究の重要性」J. Natl. Inst. Public Health, 53(3)
『東大がつくった高齢者の教科書長寿時代の人生設計と社会創造』東京大学恒例社会総合研究機構(編著)2017
三重野 卓(2013)「「生活の質」の概念の再構築へ向けてーその現代的意義ー」『応用社会学研究』(55):175
中谷茂一(2013)『ウエルビーイング』
林 日出夫「英語学習の「楽しさ」「重要性」「実行」についての学習者間比較—動機づけの視点からー」『Language Education and Technology』pp.191-212
東 洋(2012)「幸福感尺度の概念的妥当化― 唐澤論文へのコメント―」『Japanese Psychological Review』(55.1)pp.152 -155
〈作成者:さゆる〉